在校生に対するメッセージを送るようにという編集当局からのご指示がありましたが、検事になって1年しか経っておらず、まだ「語る」資格はありませんので、メッセージに代えて、勝手に体験記を述べさせていただきます。
さて皆さんも、テレビで、スーツ姿の男達が、段ボールを持って建物に入っていくのを見たことがあるのではないでしょうか。あれは、検察の特捜(=特別捜査部)の捜索・差押(通称「ガサ入れ」)です。
「吐きそうだ」、「俺もう死にそうだよ」。ガサ入れ当日、検事や検察事務官は、ほとんどやけくそで集合してきます。(特に徹夜組)。なぜなら、集合時刻は午前4時30分、まっとうな生活をしている人であれば、当然寝ているべき時間だからです。
なぜ、こんな時間に集合するかというと、マスコミ対策という面もありますが、容疑者側の証拠隠滅工作を未然に防ぐことが主眼であります。
「第1班は、○○市の容疑者の自宅へ、第2班は○○区の事務所へ行ってもらう。ミスは許されないからな。」特捜のキャップは疲れた様子は微塵も見せずに指示を飛ばします。何せこの人は、1日3時間睡眠で1年間通したという伝説の持ち主です。このくらいは何ともないのでしょう。
やっと夜が白んできたところです。捜索令状と段ボールと我々を乗せたワゴンが容疑者の自宅前に静かにとまりました。午前6時。こんな時間に踏み込まれるなんてやっぱり悪いことはするもんじゃないと思いつつ、呼び鈴を押します。
…しばらくしてドアが開きました。眠そうな声が聞こえます。「何のご用ですか。」「検察庁の者です。ちょっとお邪魔させて頂きたいのですが。」
長い一日は静かにはじまりました。